TANAKABLOG

TANAKA(仮名)の日常と備忘録


SESSIONを観た

もう勤め始めて結構経つのだが突然上司が「田中、お前ドラム叩くんだよな!SESSIONは観たか!観てないなら観ろ!帰ってすぐ観ろ!」と、突拍子も無いことを言うもんだからNetflixAmazonプライム・ビデオで観れないかと思って調べてみたら、Netflixで視聴できたので観てみることにした。冗談抜きで本当にいい上司なんだ。

下書きにしたためている記事は沢山あるけど、思ったことをすぐなまとめてみたくなってのエントリ。以下ネタバレ、かも。

映画「SESSION」感想等

あらすじを書こうとしたけど、Wikipediaが映画を観なくてもいいレベルの簡潔で分かりやすいまとめだったので、そちらを観て欲しい。

俺がまとめると、

世界的な演奏者になりたい若者と、その資質を見抜きパワハラまがいの対応でその素質を伸ばそうとする指導者の物語

という非常にざっくばらんなものになってしまうのだ。

まず一番最初に印象的だったのは「バカはロックを演奏しろ」みたいなフレーズが舞台となっている音楽大学の中で出てくるところ。「あぁ、なるほどな」って感じである。まぁ今更そんなことを言われて激情的になるような年でもないのだが、音楽大学とかそういうところの人はそういう感じで他の音楽を見てるんだろうな、という気になった。

他にも指導者のフレッチャーは指導する中で数々の暴言、差別的発言が飛び出しているし「これ本当に平成の映画なのか」と、アメリカ合衆国で作成された映画に対して思っちゃったんだけど、2014年製。アメリカとかってやっぱりこういう文化的なものの中では多少過激な表現を使うことに対しては寛大なんだろうね。最近日本のドラマだと喫煙シーンすらほとんどないし、未成年者の喫煙シーンとか流せるのかね。

その辺の感じも含めてとても面白い映画ではあったんだけど。

あと完全にびっくりしたのが、ジャズ演奏家っていうのは曲を決めれば、後はバンド練習なんてせずに、初対面でバッチリ演奏できるものだということ。個人プレイの集合体であると考えられる野球の日本代表ですら合宿して息を合わせているってのに、音楽家ってのはすごいもんだと思い知らされた。本当かどうかは知らん。

フレッチャーはアンドリューをどうしたかったのか

俺がアスペルガーだからなのか、アメリカ映画の表現方法に全くついていけていないからなのかはよくわからないんだけど、フレッチャーがアンドリューを最終的にどうしたかったのかがわからない。

フレッチャーのパワハラに対してブチ切れたアンドリューがステージの上でフレッチャーに殴りかかって、その後退学になる。で、自殺したかつてのフレッチャーの教え子の両親が「フレッチャーのパワハラで子どもはうつ病になっていた。同じような被害者を出さないために証言してほしい」的な感じになって密告した結果、フレッチャーも学校をクビになるのだ。

最初は資質を見抜いたような雰囲気だったけど、アンドリューによるフレッチャーのパワハラ密告以降は、本気で音楽の表舞台から消そうとしてるとしか思えない。

スカウトたちが多数集まるステージの上でアンドリューには知らせてなかった曲を演奏させ恥をかかせることで完全に表舞台からは消そうとしたのだ。

フレッチャーのパワハラには、「満足することで成長は止まってしまうから、罵詈雑言を浴びせることで奮い立たせることで、世界的な演奏家になれる」という部分が少なからずあったんだと思う。

ただここの部分だけ見ると、完全なる「復讐者」としか思えない。「チクったのは自殺した教え子の同級生だろう」みたいなことでアンドリューを油断させて、ステージ上で恥をかかせようとした面は「指導者」の顔を失っていると思う。まあ学校クビになってるから指導者もクソもないんだろう。ってなったらエンディング直前までは完全にイかれてたおっさんってことでいいのか。

全てはラスト10分のために

最後の10分。前述の通り、復讐者と堕ちたフレッチャーにステージ上でハシゴを外され、譜面もない状況で初見(初耳というべきか)の曲を演奏させられ、スカウトの前で恥さらしとなるアンドリュー。しかし父親と袖で抱き合ったのち、ドラムソロを叩きに戻り「キャラバン」を演奏し始めることに。鬼気迫る演奏からかベースが乗り、ピアノが乗り、最終的にはバンド演奏となる。フレッチャーも指揮をとらざるを得なくなる。

袖に一度逃げて、ステージに戻った時のアンドリューの気持ちが俺には全くわからない。フレッチャーの指導方針は知ってたはずだから「これも指導(パワハラ)の一環」と思ったのか「本気の復讐」と思ったのか、俺には読み取れなかったんだよね。そして多分答えもない。

そんな形でバンドを巻き込むことでフレッチャーへの復讐をまっとうな形で成し遂げたアンドリュー。最後はアンドリューが劇中で最も苦戦していたテンポコントロールを「目玉をえぐる」とか言いながら指揮をとらざるを得なくなったフレッチャーが吹っかけ、それを見事なストロークで返す。指揮をしているフレッチャーは新たな才能の誕生の瞬間に立ち会い純粋に指揮者として楽しんでいる。クラッシュライドが倒れかかった時にはフレッチャーがスタンドを調整し直す。一度は完全に道を別れた師弟関係が再度同じ道へとつながる。痺れるよね。

そしてやがて演奏後のドラムソロも終わり、「キャラバン」が終わるとともに「SESSION」も幕が降りる。一度は暴力という形で反撃しバンド、学校を追い出されたアンドリューが最も合理的な形でフレッチャーにやり返した。その演奏の終わりとともに映画も終了。

日本映画によくある「後日談」的なものが一切ないのもいいよね。何もなくていいんだ。アンドリューがどうなったのかを想像するのも楽しい。

語彙力がないのでアレなんだけど、とてもいい映画だった。

俳優陣について

主役の俳優なんだけど、演技指導だけであそこまでドラマーになれるんだろうか、それともオーディションの段階である程度絞られたのだろうか、どうなんだろうな。アメリカとか田舎の方だと結構家で叩ける人とか多そうだし。

あと主人公に振られた女優さんだけど、同級生で現在はバツイチというのが衝撃だった。

総じて

交通事故後に病院にも行かずにドラムを叩くという狂気じみた設定なのかギャグなのかよくわからないところや、「音楽学校が全て」みたいな浮世離れした部分は多少あるにしても、ラスト10分の「キャラバン」は一見の価値があると思う。そしてそれを見るために90分の前段がある、と言っても過言ではないと思う。

俺的にはとても面白かった。別にドラマーじゃなくても楽しめると思う。

ちなみに音楽家を名乗る人にはオススメしない。全力で。